矛盾する「音を良くする方法」が存在する理由

オーディオでは音を良くするための方法というのはネットを調べるととてもたくさんあります。たとえばアナログの回路方式一つとっても「これは矛盾するのではないか?」というような事例も存在します。例えば次のようなものです。(あくまで例なので、おおまかなグループ分けとさせて頂きました。)

  1. 非安定化電源、無帰還アンプが良いという話
  2. LED電源、電流帰還アンプが良いという話
  3. 帰還電源、帰還電圧アンプが良いという話

特に1と3はもっとも相反する設計方針だと思われます。単なる歪率等の測定データだけで言うならば3>2>1になるはずですが、最近では3.の高帰還型が良いという謳い文句は大手メーカーではほとんど見かけなくなった気もします。しかし測定重視のメーカーであれば3の設計を採用しているはずです。

1は理詰めでいうともっとも高音質から遠いように思えるのですが、現在でもこのような設計方針を貫いているメーカーがあると思います。そのようなメーカーが現実として生き残っている、そして音質面で評価されているとしたら、少なくとも「品質に問題のあるものは作っていない」と考えるのが妥当です。そこには良さを感じられる何かがあると誰かが認めた結果だと思うのです。

では疑問となるのは「音質として本当に優れているのどちらか?」ということですが、これは机上の理論ではなかなか決着は付きそうにありません。音質そのものの優劣を電子回路の技術やノウハウで解明するのはなかなか難しい課題ではないかと思います。(真空管とトランジスタの話でも似たようなものでしょうか。)

素材はあくまで素材

このような理由は、感覚に基づく評価だからこそ結論が出ないものだと考えています。しかし、これだけだとありふれた結論かもしれません。

それでは技術者ではなく音楽制作者からの意見を言うならば、これは何ら特別ではない非常に一般的な話に感じます。事実レコーディングに求められる音質というのはジャンルや楽器、編成によっても全く異なるのが一般的です。同一楽器でも求めるイメージによって作られる音は全く別物といってもいいでしょう。

制作現場ではレコーディングした音を積極的にいじります。そもそものレコーディングに使う機材(マイクやコンプレッサーなど)には強いキャラクターを持つものも多く、それをエンジニアがイメージする音を作るために適宜使い分けます。録音された音には既にこのような個性が付加され、さらに編集によってエンジニアの求める音を作り出していきます。ここでは音自体を変えることが表現手法そのものです。制作現場とはそのような世界です。

CDに収録された原音は大抵はこのような人によって創りだされた仮想現実です。なにも手を加えられていない音は音自体としては純粋かもしれませんが表現、メッセージというものも同様に含まれていないものです。

しかしそれならば「ルール無用のなんでもあり」なのかといわれれば、そういうことではありません。表現したいイメージがどれだけ明確か、表現を実現するための技術レベル、その結果人々の共感を生むことができるかどうか、ぱっと思いつく範囲だとこのような条件はあります。

表現したいものが明確でない状態というのはどういうことか料理でたとえるならば、和洋中世界中の高価な材料と調味料をあつめて混ぜ合わせただけの料理(甘みも辛みも珍味も全部ただ混ぜる!)を作っても、おそらくそれは料理とは呼べないものになってしまうでしょう。

要するに素材だけで勝負が決まるものではなく、磨き上げられた感性をもつ職人によって選別、組み合わせ、処理され、磨き上げられたものだからこそ、価値があるものといえるのではないでしょうか。

方向性は人が定める

少し話がそれましたが回路方式の話に戻ります。この話を踏まえて考えますと、オーディオの設計で矛盾する設計方針が同時に存在する理由も想像がつくのではないかと思います。

それはイメージする「理想の音」の違いです。

それぞれの設計者が思い描く理想は全く異なっていて当然です。であればそれに近づく方法が全く異なっていてもおかしくはありません。最初に上げた3つの方法論も思い描く理想の違いによって、全てが正解となりうることでしょう。ある人にとっては1であり、ある人にとっては3ということです。最も重要なのは1-3のうちどれが一番音が良いのかという単純なものではなく「1-3のうち、自分の求める理想に近いものはどれか」ということをしっかり判断することでしょう。その判断が明確であり近づけるための手段として多くの方法論を実行しているほど、その機材は高みにあるといえるのではないかと思います。

もしオーディオが測定値やスペックだけで勝負が決まる世界ならば、ずっと昔にオーディオ業界はスペックの高さ一辺倒になり、スペックの低いものは生き残れないというようなことになっているのではないかと思います。しかし現実はそうなっていません。この現実にはある種の真実が含まれているはずだと思います。それは答えのはっきりしていない表現の世界であると考えます。

表現とは設計者の理想とする音世界です。その世界を実現する方法は多岐にわたっており、あらゆる要素が音を変化させます。そしてその方法論は常に矛盾をはらみます。しかしその矛盾は設計者の理想とするイメージによっていずれかの方向へと強く方向性が定められます。その方向性が全てにおいて同じ方向を向いた時、それは強いメッセージをもった音質、機材となるはずです。

逢瀬の方向性

もちろん逢瀬も考えられる限りの手段で選別を行なって音決めをしていますが、例えば上記の1-3については逢瀬はどうしているか書きます。

基本的には現代の流行ではない3の帰還型を中心に採用していますが話はこれだけでは終わりません。1-3のどれか一つを選ぶという以外の回答もあります。3の帰還型は特定の使い方において1と比較してある部分の音質が劣化してしまうことがわかっています。この劣化した状態では1のほうが確実に良い部分があります。もしかしたら1が良いと言われている事例はこのような劣化する使い方で比較したからかもしれません。しかし単純に1にしてしまうと3の良さもまた失われてしまいます。

そこで逢瀬は3の良さと1の良さを同時に実現する解決方法を発見しました。1の良さと3の良さは音として異なるところにありますので、両方同時に実現するには新しい発見が必要でした。この発見のためには3の良さと1の良さ、それぞれが別個に存在することを認識し劣化の原因を特定して同時に実現する方法を探すというプロセスが必要です。1-3の選別だけでも設計者の方向性が必要ですが、3をベースにすることを選択してそこから良さを両立するための試行錯誤の世界です。

このようなノウハウが公開はされることはないと思いますが、ハイエンドの世界ではこのような積み重ねは普通に行われているのかもしれません。もちろんまだ見ぬ音質の実現手段は幾多にもあると思いますが、少なくともこのように現時点でわかっている範囲の理想を現実的な価格で表現するための試行錯誤は全力で行なっています。

そして逢瀬の売りは音楽制作者出身の設計者ということですから、音質傾向を選別する感性は一人の音楽制作者としての観点です。(音質基準について詳しくはこちらのページに記載があります)

逢瀬がどのような音質の方向性を目指すのであれ、お客様の好みに合う合わないは必然的に出てくるものと思いますが、できるだけ多くのお客様に価値があると思っていただける音質を提供できることを願っています。

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