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WATERFALL Integratedのケース加工

秋の正式発表に向けてIntegratedの開発を続けています。発注していたケースですが、本日加工品が上がって来ました。シルクを印刷すると一気にそれらしくなると感じています。これから組み上げて実験です。

ちなみに↑は写真ですが、製品情報にある↓のIntegratedの画像は3Dグラフィックで作成したものです。

製品デザインをするにあたって都度加工して組み上げて仕上げをチェックするという方法ではどうしてもやり直しの時間、コストも共にかかってしまいますが、このように3Dで事前にデザインの検討を行うことで大幅な効率化が可能でした。現代のツールに大変助けられていると感じます。とはいえ細部はやはり実際に作ってみないとわからない部分もあります。

今回仕上げを白アルマイトと梨地の2パターン依頼しましたが新製品のIntegratedは個人的には梨地が良さそうに感じています。梨地の上に印刷されたシルク文字が梨地のゆらぎがほどよく組み合わさり良い感じの質感を演出していると思いました。

Integratedの基板は先月に最終候補の版を発注済みなので、最終テストで期待した性能を出すことが出来ればそのまま量産へ入る予定です。順調ならば秋、冬ごろには発売できるように準備中です。よろしくお願いいたします。

測定環境のアップデート(Integrated開発機の特性を測定)

以前の測定ではノイズフロアや歪率について正確かどうかはっきりしなかったので、測定環境をアップデートしました。とはいえ本格的な測定器は非常に高額なので、現実的な価格帯でありながら史上最高峰の測定特性と噂されるLynx Hiloを導入しました。

早速ですがWATERFALL Integratedの試作品で測定データをとってみましたのでアップします。測定機材のアップグレードによりノイズフロアが大幅に下がり、DACの真のS/Nがある程度見えてくるだけでも価値がありました。

J-testの結果です。ピークは-6dBに合わせてあります。特別目立つノイズもなく素直な応答ですのでジッターは殆ど無いと推測出来ます。特にノイズフロアが-150dBを下回っているのでS/Nは非常に良好と思われます(これでも既に測定器の限界です)。特にS/Nとジッターによる音質差は音の濁りや分離の悪さに直結しやすいため歪率よりも重要と感じています。

続いて歪率ですが、100Hz以降に乗っている微細なリップルノイズは接続ケーブル起因によるものであることがわかっています。もっとケーブル長を短くするかシールドを強化しなければ除去は困難ですが、現状では間に合わせのため申し訳ないですがこのようなところが限界です。(もちろん将来的に改善したいです)

また歪率そのものについては特別悪くはありませんが現代においてはこのレベルなら特別優れているというわけでは無いでしょう。それよりも個体差、ばらつき等が結構あるので安定した数字を達成するには部品の精度を更に上げるしかないでしょうか。しかも微妙な歪率の差による音質劣化はほとんど感じられないので、機材としてはこのあたりの数字を達成していれば特別問題はないと考えています。

19kHz+20kHz、IMD混変調歪です。

最後にこれは16bitと24bitの-90dBレベルの信号をそれぞれWATERFALL Integrated 内蔵DACにデジタル入力し、アナログの出力波形を観測したものです。上が24bit、下が16bitの1kサイン波形(-90dB)です。これも海外のオーディオサイトの測定でよく使用されているデータですので掲載してみました。

Ucdの独自カスタマイズについて – その2

今回は電源の音質への影響についての内容です。

電源による音質への影響はよく言われている内容なのですが、開発を進めていくと電源が当初想像していたよりもはるかに大きな影響を与えていることがわかります。その理由を考えてみるとすべてのアナログ信号は電圧によって表現されており、グラウンドや電源電圧の変動は間接的に信号自体の変動へとつながります。ですから電源回路の重要性の高さは信号回路と比較して決して劣ることない理由も伺えるかと思います。ですから理想的には電源は信号と全く同じレベルの慎重な対策を行うべきでしょう。

電源の変動を直接制御するのは電源回路の役割です。その電源回路に一般グレードのICを使うことは音質への対策として全く不十分であると逢瀬では結論づけました。そのため逢瀬のラインナップでは独自の電源回路Refine Unitを必ず搭載することにしています。

「Refine Unit」について

Ucdのデフォルト状態ではオンボードにある簡易電源回路によるレギュレータがバッファアンプの電源を供給しています。逢瀬ではこのレギュレータによる音質に与える影響が大きいと判断しています。特にスイッチング電源を使用した場合に劣化が顕著であり、デフォルトのレギュレータにスイッチング電源を組み合わせると大きく音質が損なわれてしまいます。具体的には高域が荒くなり繊細な表現が大雑把に感じられてしまいます。これらは質の劣るクラスDアンプの特徴でありわざわざUcdを使う意義がありません。

そこでWATERFALL Compactではそのような劣化を防ぐために独自のレギュレータである「Refine Unit」を独自の基板上に搭載しディスクリートバッファアンプと組み合わせることにしました。これによりスイッチング電源と組み合わせた場合であっても音質の劣化はトランス電源と比べはるかに減少し、結果としてトランス電源と同レベルといえる音質を確保しています。(トランス電源とスイッチング電源の音質傾向は厳密には異なるので完全な優劣にはなりませんが)

Refine Unit自体はICオペアンプをエラーアンプとして使用したハイゲインのレギュレータとなります。その基準電圧はローノイズ電圧リファレンスであり、ICオペアンプはこの基準電圧をもとに出力電圧を常に監視し、その高精度エラー訂正能力によって電圧を常に理想状態に保ちます。その性能はICオペアンプと基準電圧の品質が肝となります。ICオペアンプを使用することにより単なるローノイズ電源というだけでなく変動を強力に押さえに行く動作が特徴です。

しかし回路技術以外に重要となってくるのは、電源回路に使うパーツの組み合わせによって実際の音が大きく変化してしまうという点です。これは単なる性能だけで測れる部分ではなく、耳によるテストと選別が必須です。実際Spiceなどの回路シミュレータで電源回路の性能を検証すると十分な性能というのは比較的容易に達成出来ますが(下の図1、図2はその結果)、シミュレーションと実際では大分異なる部分も多いですし、音質的には単なる基準や目安にしかならないということになります。耳での評価になるとそのままの理屈だけの回路では音質的に素晴らしいものであるとは断言出来ません。もちろん三端子レギュレータ等と比較すれば十分高音質と言える領域にはあるのですが、更にここからパーツの組み合わせや定数を吟味することが必要で、それによって更に「逢瀬らしい個性を乗せた高音質」とすることが重要だと考えています。

このディスクリートアンプ+Refine Unitの搭載によりUcdの本来の音質を取り戻し、さらに逢瀬の個性を乗せたクラスDアンプ。それがWATERFALL Compactとなります。


図1.単段レギュレータによるノイズ除去シミュレーション結果


図2.多段レギュレータ+フィルタによるノイズ除去シミュレーション結果

 

矛盾する「音を良くする方法」が存在する理由

オーディオでは音を良くするための方法というのはネットを調べるととてもたくさんあります。たとえばアナログの回路方式一つとっても「これは矛盾するのではないか?」というような事例も存在します。例えば次のようなものです。(あくまで例なので、おおまかなグループ分けとさせて頂きました。)

  1. 非安定化電源、無帰還アンプが良いという話
  2. LED電源、電流帰還アンプが良いという話
  3. 帰還電源、帰還電圧アンプが良いという話

特に1と3はもっとも相反する設計方針だと思われます。単なる歪率等の測定データだけで言うならば3>2>1になるはずですが、最近では3.の高帰還型が良いという謳い文句は大手メーカーではほとんど見かけなくなった気もします。しかし測定重視のメーカーであれば3の設計を採用しているはずです。

1は理詰めでいうともっとも高音質から遠いように思えるのですが、現在でもこのような設計方針を貫いているメーカーがあると思います。そのようなメーカーが現実として生き残っている、そして音質面で評価されているとしたら、少なくとも「品質に問題のあるものは作っていない」と考えるのが妥当です。そこには良さを感じられる何かがあると誰かが認めた結果だと思うのです。

では疑問となるのは「音質として本当に優れているのどちらか?」ということですが、これは机上の理論ではなかなか決着は付きそうにありません。音質そのものの優劣を電子回路の技術やノウハウで解明するのはなかなか難しい課題ではないかと思います。(真空管とトランジスタの話でも似たようなものでしょうか。)

素材はあくまで素材

このような理由は、感覚に基づく評価だからこそ結論が出ないものだと考えています。しかし、これだけだとありふれた結論かもしれません。

それでは技術者ではなく音楽制作者からの意見を言うならば、これは何ら特別ではない非常に一般的な話に感じます。事実レコーディングに求められる音質というのはジャンルや楽器、編成によっても全く異なるのが一般的です。同一楽器でも求めるイメージによって作られる音は全く別物といってもいいでしょう。

制作現場ではレコーディングした音を積極的にいじります。そもそものレコーディングに使う機材(マイクやコンプレッサーなど)には強いキャラクターを持つものも多く、それをエンジニアがイメージする音を作るために適宜使い分けます。録音された音には既にこのような個性が付加され、さらに編集によってエンジニアの求める音を作り出していきます。ここでは音自体を変えることが表現手法そのものです。制作現場とはそのような世界です。

CDに収録された原音は大抵はこのような人によって創りだされた仮想現実です。なにも手を加えられていない音は音自体としては純粋かもしれませんが表現、メッセージというものも同様に含まれていないものです。

しかしそれならば「ルール無用のなんでもあり」なのかといわれれば、そういうことではありません。表現したいイメージがどれだけ明確か、表現を実現するための技術レベル、その結果人々の共感を生むことができるかどうか、ぱっと思いつく範囲だとこのような条件はあります。

表現したいものが明確でない状態というのはどういうことか料理でたとえるならば、和洋中世界中の高価な材料と調味料をあつめて混ぜ合わせただけの料理(甘みも辛みも珍味も全部ただ混ぜる!)を作っても、おそらくそれは料理とは呼べないものになってしまうでしょう。

要するに素材だけで勝負が決まるものではなく、磨き上げられた感性をもつ職人によって選別、組み合わせ、処理され、磨き上げられたものだからこそ、価値があるものといえるのではないでしょうか。

方向性は人が定める

少し話がそれましたが回路方式の話に戻ります。この話を踏まえて考えますと、オーディオの設計で矛盾する設計方針が同時に存在する理由も想像がつくのではないかと思います。

それはイメージする「理想の音」の違いです。

それぞれの設計者が思い描く理想は全く異なっていて当然です。であればそれに近づく方法が全く異なっていてもおかしくはありません。最初に上げた3つの方法論も思い描く理想の違いによって、全てが正解となりうることでしょう。ある人にとっては1であり、ある人にとっては3ということです。最も重要なのは1-3のうちどれが一番音が良いのかという単純なものではなく「1-3のうち、自分の求める理想に近いものはどれか」ということをしっかり判断することでしょう。その判断が明確であり近づけるための手段として多くの方法論を実行しているほど、その機材は高みにあるといえるのではないかと思います。

もしオーディオが測定値やスペックだけで勝負が決まる世界ならば、ずっと昔にオーディオ業界はスペックの高さ一辺倒になり、スペックの低いものは生き残れないというようなことになっているのではないかと思います。しかし現実はそうなっていません。この現実にはある種の真実が含まれているはずだと思います。それは答えのはっきりしていない表現の世界であると考えます。

表現とは設計者の理想とする音世界です。その世界を実現する方法は多岐にわたっており、あらゆる要素が音を変化させます。そしてその方法論は常に矛盾をはらみます。しかしその矛盾は設計者の理想とするイメージによっていずれかの方向へと強く方向性が定められます。その方向性が全てにおいて同じ方向を向いた時、それは強いメッセージをもった音質、機材となるはずです。

逢瀬の方向性

もちろん逢瀬も考えられる限りの手段で選別を行なって音決めをしていますが、例えば上記の1-3については逢瀬はどうしているか書きます。

基本的には現代の流行ではない3の帰還型を中心に採用していますが話はこれだけでは終わりません。1-3のどれか一つを選ぶという以外の回答もあります。3の帰還型は特定の使い方において1と比較してある部分の音質が劣化してしまうことがわかっています。この劣化した状態では1のほうが確実に良い部分があります。もしかしたら1が良いと言われている事例はこのような劣化する使い方で比較したからかもしれません。しかし単純に1にしてしまうと3の良さもまた失われてしまいます。

そこで逢瀬は3の良さと1の良さを同時に実現する解決方法を発見しました。1の良さと3の良さは音として異なるところにありますので、両方同時に実現するには新しい発見が必要でした。この発見のためには3の良さと1の良さ、それぞれが別個に存在することを認識し劣化の原因を特定して同時に実現する方法を探すというプロセスが必要です。1-3の選別だけでも設計者の方向性が必要ですが、3をベースにすることを選択してそこから良さを両立するための試行錯誤の世界です。

このようなノウハウが公開はされることはないと思いますが、ハイエンドの世界ではこのような積み重ねは普通に行われているのかもしれません。もちろんまだ見ぬ音質の実現手段は幾多にもあると思いますが、少なくともこのように現時点でわかっている範囲の理想を現実的な価格で表現するための試行錯誤は全力で行なっています。

そして逢瀬の売りは音楽制作者出身の設計者ということですから、音質傾向を選別する感性は一人の音楽制作者としての観点です。(音質基準について詳しくはこちらのページに記載があります)

逢瀬がどのような音質の方向性を目指すのであれ、お客様の好みに合う合わないは必然的に出てくるものと思いますが、できるだけ多くのお客様に価値があると思っていただける音質を提供できることを願っています。

ジッター対策の話 その1

今となっては広く知られた事項となり今更特筆すべき事ではないかもしれませんが、ジッターとは決してオカルトではありません。踏み込んでいくと大変難しい話なのですが、オーディオで簡単にいえばデジタルからアナログへの変換の際に基準タイミングのズレが波形の乱れ=音質変化につながります。全く同じデジタルデータであってもクロックにジッターが多い=タイミングがずれる、これによってオリジナルとは別の波形が再生されてしまうわけです。といっても文章で事例を具体的に説明するのは難しいです。個人的にわかりやすいと思った説明ページがありましたのでこちらを参照ください。(よくわかっている方は飛ばしてください)

新人エンジニアの赤面ブログ 『 なぜ Jitter に注意しなくてはならないのか? 』

デジタルからアナログへの変換の場合、このようなジッターの少ない基準クロックを用意することが音質にとって重要ということです。実際にクロックの扱い一つで実際の再生スペクトルに影響があります。

ところでオーディオでは一時期クロックの周波数確度=ppmスペックの高さを重要視する流れがあったと思います。しかし音質のためにはこのppmスペックだけ確保すれば良いというものではありません。上記のような波形そのものに影響するのはppmではなくジッター(ps)であり、オーディオで重要になるスペックはこちらだと逢瀬では考えています。これについても次のリンクを参照いただけたらと思います。

新人エンジニアの赤面ブログ 『クロック信号の精度表記について』

周波数確度ppmとは音楽で言えば音程のズレに関する指標です。この精度が悪いならば音程が微妙にずれてしまうというわけです。対してジッターは上側のリンクの画像にあるような波形単位の乱れに直結します。こちらは音程ではなく音質の変化です。ですからオーディオの設計においてはジッターの低さこそが音質のためには重要であって、周波数精度については通常の精度があれば十分でありオーディオにおいて最重要課題ではないと判断しています。厳密な音程は一流のクラシック含めた伝統的音楽の奏者ならば非常に微細な音程の違いに敏感かもしれませんが、一般人にとっては無縁な世界だと思います。

もちろん逢瀬ではクロックについても当然気を配っています。上記の事項を基本とし周波数確度ppmよりも低ジッターであることを優先したクロック(jitter RMS 0.5ps typ)を使いデジタル再生に必要とされる低ジッター特性を確保しています。

その結果が次のJ-testの測定データです。J-testはジッターに敏感な信号を送信し、その再生スペクトルを見ることでジッターの発生レベルを調べる方法です。(日本語の資料がなくなってしまいましたが、詳しくはこちら(PDF英文))下の画像をみていただければ、逢瀬のDACでは余計なノイズや高調波が発生しない=ジッターが全く発生していないことがよくわかると思います。またノイズフロアはここが測定系の限界であり、実際のDACそのもののノイズフロアはもう少し低いと思われます。

図、44.1kHz J-testの様子

ただし実際のDAC設計では低ジッタークロックをなんでも使えばいいというものではなく、きちんと性能を出して使う上で注意点がありますがそれについては次回以降に書きたいと思います。

歪率と音質の関係2

以前こちらの記事にて歪率が最重要課題ではないということを書きましたが、今回は逢瀬が歪率を無視している設計ではないことを示しておきたいと思います。次に示すデータは正式な測定機によるものではないため、完全に正しいデータではなくあくまで目安の歪率にとどまりますが、特定の測定条件に特化して歪率を減らす試みが可能であるという一例だとお考えください。

また共通の注意点として画像のFFTには表示されておりませんが測定系依存の低周波ノイズの影響で+Nは一定より良い数字が出ませんので基本THD表示を元に判断しています。


図1

図1に示したデータは試作DACのアンバランス出力を測定したものです。I/V変換と差動合成にはそれぞれ逢瀬ディスクリートオペアンプを使用しています。このような測定結果は部品の公差、個体差を微調整することで、ディスクリートのアンプを使った場合であっても達成が可能です。もちろんディスクリートオペアンプの内部設計において部品の個体差の影響があっても高いオープンループゲインを稼げるような設計を心がけていますが、最終的な手作業による調整が必須であるのは差動の精度についてはやはり部品の個体差の影響を排除できないからです。


図2

図2は別の試作DACでICオペアンプをI/V変換、差動合成に使用したものです。ディスクリートのほうが優秀であるのは、そもそも測定器そのものに誤差がありその誤差を含めて調整可能なディスクリートの優位性からかもしれません。正確な原因は不明ですが測定器そのものが正式なものではないため正しい測定器で測定した場合は上記と全く異なる結果になる可能性もありえることを断っておきます。

どちらにせよ本測定に限定すれば概ねDACのスペックに近い数字は得られています。ICオペアンプの最大の利点はもともと内部の精度が高く個別での調整が不要のため量産において個体差が少なく安定したスペックを確保しやすいところかと思います。

前回に書いたように歪率による音質差というのは比較的小さいと逢瀬では考えていますが、上記のように決して歪率を無視した設計をしているわけではありません。たとえ音質面で歪率が10%以下の比重であったとしても、逆に言えば10%の重要性はあるわけです。(注意:10%というのは感覚的なたとえ話で実際の話ではありません)ですので、より音質的に重要な対策とトレードオフでない場合であれば、歪率も決して無視をしてよいわけではないと考えています。

もちろん歪率以外にも重要な音質を決める要素は多数あり、全てにおいてバランスよく対策することがトータルの音質のためには重要であるということだと思われます。

5/11ヘッドフォン祭りに出展いたします

上の写真は現在のWATERFALL Integrated試作品です。5/11のヘッドフォン祭りにエミライ様ブースにてこちらを出展予定です。フロントパネルの仕上げとノブがイベント合わせのため正式版ではなく間に合わせ状態ですが、製品ではこのあたりは製品情報にあるようなイメージ画像の通りアルミ削り出しによる仕上げになりシルク印刷も入ります。今回の展示はあくまで仮ということでご容赦ください。

WATERFALL Integratedの製品情報はこちらをご覧ください。

こちらの製品はヘッドフォンアンプがメインではないので果たしてヘッドフォン祭りでどこまで実力を発揮することができるのかは不明ですが、ヘッドフォンアンプ部もUcdパワーアンプを流用していますので、一応おまけの範疇にとどまらない高いクオリティに仕上がっていると自負しております。もちろんスピーカで聞くのとはわけが違いますがWATERFALL Integratedのクオリティの一端を知ってもらうきっかけになれば幸いと思っております。

是非この機会にWATERFALL Integratedのサウンドを体験てみてください。当日は(間に合いましたらば)逢瀬のカタログ配布も行う予定です!

Ucdの独自カスタマイズについて – その1

もし未見の方は、まずは逢瀬がクラスDアンプを選んだ理由の記事を御覧ください。

逢瀬で採用しているクラスDアンプであるUcdモジュールは、もともとのデフォルト状態であっても特性は十分ですが、オンボードのICオペアンプバッファとレギュレータの質は十分とはいえません。そこでWATERFALL Compactではこの部分をオリジナルのディスクリートバッファアンプと電源回路Refine Unitに置き換えています。これにより分離とキレにおいて数段優れた音質として改善させしています。

ここまでは製品情報でも簡単に触れている部分ですが、ではこのディスクリートアンプ、そしてRefine Unitとは具体的にどのようなものか、何が優位性なのか、ということについてもう少し掘り下げて書いてみたいと思います。

カスタマイズその1…独自ディスクリートオペアンプによるバッファアンプ

Ucdアンプのコアはフルディスクリート構成であることは前回お伝えしたとおりです。Ucdのパワーアンプ部はIC=集積回路を使用しない個別素子によるアンプ回路であるということです。しかしUcdのパワーアンプ部はそのままではゲインが低いこと、入力インピーダンスが低いこと、これらの特徴があります。そのため汎用的なパワーアンプとして仕上げるためには、入力にもう一段バッファアンプを入れることが必要であり、これによりパワーアンプとして十分なゲインと入力インピーダンスの高さを確保しているのです。

ですのでこのバッファアンプのクオリティが音質に与える影響は非常に大きいものがあります。アンプの半身はこのバッファアンプといっても過言ではありません。はっきり言ってデフォルト状態ではUcdにとって十分なものではありません。使用されているのは今となってはやや古い設計となるICオペアンプである5532です。採用例も多く特性面から言えば特別悪いICではないものの、Ucdアンプの素性からするとトータルの音質はこの5532によって制限されているといってもいいような状態といえるでしょう。

そこで逢瀬ではこのボトルネックを改善するため独自のディスクリートバッファアンプを開発しました。17の能動素子を組み合わせた高いオープンループゲイン(動作条件により120dB~140dB程度)、FET入力でありながらローノイズ(約3nV/√Hz)、低バイアス電流(約1nA)なアンプであり、通常のICオペアンプと同様NFBを大量に掛けて特性を確保する設計となっています。また入力回路にはFET+カスコードブートストラップ回路を使用しているのでアンプの入力段として最適なハイインピーダンス入力に強い、特にバッファアンプ用として安定した性能を確保しやすい設計としています。

ではなぜディスクリートアンプを採用したのでしょうか。現代においてICオペアンプで特性上優れた製品はいくつも存在します。それで十分ではないかというのは当然の疑問だと思います。

しかし耳で比較した結果によれば、どれほど優れた特性のICであってもディスクリートオペアンプとICオペアンプの間には、原因は不明ですが超えられないベールのようなものがあります。逢瀬で実際にオペアンプの特性を測定し比較した結果によれば、特性の優れていないディスクリートオペアンプであっても、最高特性のICオペアンプより、音質上で言えばクリアで分離のよい音=逢瀬にとっての高音質であることがわかっています。測定特性以外による音の変化、その理由ははっきりしていませんが、様々な実験結果からの仮説はいくつかあります。

ここから先は厳密な理論や検証のとれた結果ではないことを断っておきますが、仮説として現在逢瀬が有力視しているのは配線による音質差です。まずディスクリートではGND、電源、これらの導体は銅線であり、絶縁は空気やレジスト基板です。それに対してICというのは半導体の上にすべての回路が入っています。半導体は導体や絶縁体になったりするので、このような性質を利用することによりICとして様々な複雑な回路を形成することが可能なわけですが、便利な反面、半導体は絶縁体としても導体としてもディスクリート構成に比べて不完全なことが原因ではないかということです。

オーディオでは電源ケーブルや信号ケーブルを変えることで音が変わりますが、銅線、銀線などで音が変わる世界ですから、ICによる音質変化は信号・電源ケーブル、シールドをシリコンに置き換えた変化のようなものではないかという話です。思えば新日本無線のMUSES01、02ではICの足に銅を使用していました。これが耳による選定ならばこのような対策が無効だとは思いません。技術系の方からは何かと物言いの入りやすいMUSESシリーズですが、もしかしたら半導体上の配線による音質劣化を少しでも和らげようという試みだったのかもしれません。後継の8820、8920は足が銅線ではなかったように記憶していますので内部でも色々と音質上の対策がされているのではないかと思います。

脱線しましたが、WATERFALL Compactで採用されているディスクリートオペアンプによるバッファは、Ucdの本来の実力、音質を取り戻すために必要と判断し採用したものだということです。逢瀬ではこのようなカスタマイズを一つ一つ手作業で行なっています。

もう一つのカスタマイズ、電源=Refine Unitについては次回以降の記事にて触れたいと思います。

逢瀬がクラスDアンプを選んだ理由

WATERFALLシリーズであるWATERFALL Compact、WATERFALL Integratedのパワーアンプ部には共通してD級=クラスDアンプを採用しています。国内では通称としてデジタルアンプと呼ばれることもある方式です。国内では一時期のブームがあったものの最近では落ち着いてきた印象があります。

まずクラスDアンプの音質の特徴を言えばアナログアンプと比べて量感は少なめで中低域があっさりしており、分離が良い、透明感があるというような感じでしょうか。スイッチング電源と組み合わされることも多く、駆動力があると評価されることも多いです。逆に高域はアナログアンプに比べて良い特性、質感を出すのが難しく荒さが目立ちやすい方式だと思います。

一時期のブームを考えると今更クラスDアンプ?と思われるのも無理がないかと思うのですが、個人的にはこのアナログアンプとは異なる音質を持つクラスDアンプの音、省電力、省スペースが可能な先進性、これらの特徴に可能性を感じていました。そしてやはりその音質に惹かれたから、というのが逢瀬のラインナップでクラスDアンプを中心に据える主な原動力となりました。もちろんアナログアンプで省電力を目指すのも良いと思いますが逢瀬はクラスDアンプの可能性に注目しました。上記のような弱点さえ克服出来れば従来達成できなかったような理想のアンプが出来上がるはずだと思ったわけです。

先日歪率が音質において最重要ではないという記事を書きましたが、個人的な経験的ではクラスDアンプの場合は歪率特性の良さと高域の綺麗さにおいてアナログアンプよりも強い相関関係があると感じました。一事が万事ではない、耳で判断しなければわからない、このようなことはオーディオでは日常茶飯事です。いままでの比較結果からはクラスDアンプの場合は歪率が優秀なアンプのほうが音が綺麗である可能性が高いということだけです。

クラスDアンプにおいて歪率はアナログアンプよりも強く音質に影響を与えているか、高周波領域において歪率が悪いアンプは歪率以外の要因で劣化をしている可能性があると考えています。(もちろんそれだけが絶対に正しいとは言い切れないですが)

例えばクラスDアンプでは高周波をカットするために通常は出力にフィルタ回路がありますが、それによってスピーカインピーダンスによる影響を受け、実際にスピーカから出力される周波数特性は通常大きく変動してしまいます。参考までに次のような測定データがあります。メーカは伏せますがクラスDアンプにおいて周波数が変動している様子がわかるかと思います。左上がアナログアンプ、それ以外は全てクラスD方式です。

この表の中で右上にあるHypex社のUcdと左下のアンプのみが周波数特性の変動を押さえたクラスDアンプだといえると思います。しかしこのようなクラスDアンプの欠点をうまく処理しているアンプを0から探すのはなかなか大変でした。なれない英語を使って海外から各種取り寄せて組み立てて比較。そのような日々がしばらく続きました。

そして現在逢瀬のメインで使用しているパワーアンプ部、Ucd=Universal Class Dと呼ばれるHypex社による独特の方式のアンプに出会いました。国内ではほとんど知名度がありませんが海外ではそれなりに知られたパワーアンプモジュールです。このUcdアンプは全てディスクリート、アナログ回路で作られておりデジタル制御ではありません。ですので厳密にはデジタルアンプという呼び方は正しくありません。アナログ回路によるMOSFETスイッチングアンプでしょうか。

またUcdモジュールは周波数特性の変動がないだけではなく、クラスDアンプとして非常に優れた高域特性を持っており、低域と高域で歪率特性がほとんど一定です。このような歪率特性を持つクラスDアンプは非常に稀であり、このような特性を実現することはほとんど類を見ない事例です。

実際にはほかにも一部で近い特性のアンプも見つけましたが動作の安定性や入手性などから、逢瀬の最初のラインナップではUcdを採用することとなりました。Ucdモジュールはそのままでも十分優秀な音質を持っていますが、逢瀬ではそれに独自の対策を施し更なる滑らかさと音の分離を持つ製品として仕上げました。

類まれな特性によって生じるクラスDアンプとは思えないような滑らかな高域、それとクラスDアンプそのものの音質である高い分離の良さと透明感、この奇跡のような両立がついに可能となったのです。もし機会がありましたらば、是非ともこの理想のクラスDアンプの音質を体験していただきたいと思います。

歪率と音質の関係1(音声ファイルによる比較)

本日は歪率と音質の関係について書きたいと思います。オーディオのスペック表などで伝統的に用いられている歪率、THDですが、その音質差を実際の音声ファイルにて比較出来る形にしてみたいと思います。簡単なテストなので厳密性はひとまずおいて気軽に聞いていただければと思います。

ちなみに歪率を悪化させるのに使うエフェクトはFocusrite社のLiquidMixという畳み込み演算によるエフェクターをそのまま通過させたものです。アナログ機材を実際にレコーディングした波形応答を元にした演算処理のため、周波数特性やレベルは原音と全く同じではなくてわずかに変動してしまっているのですが、なかなか綺麗に足せない高調波をそれらしく足すことができます。まずは実際に1kHzのサイン波を通過させる前と通過させた後のWaveSpectraによる歪率の画像を次に示します。


図1.LiquidMix通過前


図2.LiquidMix通過後

このようにエフェクターを通過させるだけで大幅に歪率が悪化することがわかると思います。しかも「音に良くない」といわれる奇数次倍音が大きく出ています。見るからにこれは音が悪そうですね。

しかしサイン波のままでは実際の音楽での変化はよくわかりませんから、簡単な音楽ファイルにこれらと同じエフェクトを通過させてみましょう。次の3つのファイルは音楽の断片素材であるパートごとのループ素材を組み合わせてMixしたものです。1-3のうち画像のようなエフェクターを通過させたものが2つ、1つは何もしていないファイルです。フォーマットは44.1k、24bitのWAV形式です。

いかがでしょうか。
早速答えですが、1が原音、2はManley Massive Passive、3はAmek Angela Consoleという機材を元にした音です。図2はファイル2と同じもの、ファイル3も図2と似たような感じです。

聞いた印象は人によって異なる部分もあると思うのですが、私の感想で言えば上記の画像から受けるような「すごく悪化しているイメージ」よりも大きく音は変わっていない、または若干色がついた程度に感じます。強いて言えば1の原音ファイルが少し引き締まったクリアな音ですが、解釈を変えれば色気不足とも言えそうです。しかも歪の大きさ自体ではなくレベル差(3が若干大きいです)や周波数特性の僅かな変化のほうが音に影響している程度は大きいかもしれません。

このようにデジタル演算で歪率を再現してみましたが、ほとんどの方は実際のオーディオ機器における変化はこれよりももっと大きいと感じられていると思います。これはオーディオの音の違いの原因というのはもっと様々な要素があり、歪率以外にもさまざまなあらゆる要因で音は常に変化しているということではないでしょうか。

開発においても歪率のみが変化した場合は当然このファイルの違いと同じ程度の変化を感じます。しかし歪率は実際のオーディオ機器開発における音質判断にとっては「最も重要ではない」というのが逢瀬での結論でした。もちろん歪率を無視しても良いということではなく、最重要課題ではないということです。もし、より大きな音質差を生む要因があったとしてそれが歪率の悪化とトレードオフの関係にあった場合、歪率ではなくもう一方の要因を選択することでトータルな高音質を目指すということになります。そのような科学的に完全に解明されていない音の違いの原因を解明し、一つ一つ対策をしていくのはオーディオ開発者の役目だと思います。

もちろん上記のファイルを聴いて全く違う感想を持った方もいるかと思いますが、逢瀬ではこのような考え方で開発を進めているという参考例となればと思います。

歪率と音質の関係についての記事は今後ももう少し続きます。

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