廉価なパワーアンプへの要望について

以前1ET400Aを使ったハイエンドモデルについての構想記事を公開しましたが、その記事に廉価なパワーアンプも構想していると書きました。現在のところこちらの廉価版への要望が多いようです。具体的な質問をいただきましたのでこちらにも回答を掲載したいと思います。

廉価版パワーアンプの簡易仕様:税込みで20万円台、NC500×2個に1200W電源を使ったパワーアンプで、最低限のケース。バッファや前段電源回路はP500と同等、ゲイン切り替え機能は要検討。

Q.なぜ250wとか500wも必要なのか

まずD級の場合、大出力の設計が容易です。出力FETとコンデンサの耐圧でほぼ決まります。電圧が高ければSP負荷は概ね固定ですので自動的に出力は上昇するからです。

次にNcore含めたUcD方式は電源電圧ギリギリまで駆動は出来ず電源電圧に近い振幅に対しては歪率も僅かに低下するので電源電圧は余裕があったほうが良いです。電源電圧が高ければ出力も大きくなります。

最後の理由は瞬発力が低音と関係があるからです。インパルスの急峻な立ち上がりと立ち下がりは瞬間的な低音のエネルギーと関係があります。大振幅を駆動する場合には重要な能力です。電源、アンプともに負荷に対して出力に十分な余裕がなければ瞬間的な再現能力は不足します。サイン波の測定では定常状態なので周波数フラットですが、瞬間的な応答では必ずしもそうではないと考えています。これは実際に観測ができているわけではないですが体感と一致する部分です。

Q.アナログで大出力パラレルにすると反応速度が低下しますがデジタルアンプの場合如何でしょうか

D級アンプでは大出力であってもパラレルにはしません。また正負で使う素子が共通(コンデンサで電圧をブートストラップするため)なので上下の特性も揃います。

またアナログアンプと違いリニアリティ性能で素子を選ぶわけではなく、駆動電荷Qgの小ささ、ディレイの少なさ、オン抵抗の低さ、これらの性能を重視して素子を選びます。オン抵抗が非常に低いためパラレルにせずとも発熱せず小型素子で大電流を扱うことができるわけです。このオン抵抗が低いことが電流の瞬発力を確保するために必要な性能と考えており、これは上記インパルス性能と関係があります。D級が音質的に有利なのはこの部分です。

Q.万が一ケーブルをショートさせたりSPの破損などの危険度は如何でしょうか

DCとショートに対する保護回路はあります。

Q.プリアンプのボリュームが殆ど上げられなくて使い勝手に困る事はないでしょうか?

低ゲインの動作モードを搭載するかもしれません。12dB程度の電圧増幅と26dBの標準の電圧増幅を切り替える機能です。昨今のDACはゲインが高いのでそれに対応するためです。システムトータルのSNはこれで稼ぐことが出来ます。もしその機能がない場合でもゲインは26dBなので大出力だからゲインが高い(増幅率が高い)わけではないです。

100w程度のアンプは開発されないでしょうか?

上記理由により出力を抑える設計自体に意味はないと考えています。このあたりはアナログアンプと根本的に異なる部分でしょう。結果として出力が大きくなることはありますが、持て余すと言うより瞬発力を高めるための余力(オン抵抗の低さ、電源の瞬間出力能力、配線インピーダンス等)が低音描写を左右するとお考えください。

ただしひとつ駆動電圧を抑えるメリットはあります。それはスイッチング自体の電圧を低くすることができるので漏洩ノイズを減らすことが出来ます。ただ漏洩ノイズ自体は基板設計に依存する部分もあります。基板の出来が良ければ影響は大きくありません。

まとめますと、漏洩ノイズ、振幅電圧電源電圧比の劣化、この2つはトレードオフです。漏洩ノイズを限界まで低くできる基板を設計し、電源電圧は問題ない範囲で高くする(結果として高出力になる)、これが実用上は最も高性能になります。現状の設計がそのスイートスポットを狙う形になっているとお考えください。

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廉価なパワーアンプへの要望について” に対して2件のコメントがあります。

  1. 黒虎 より:

    1ET400AのステレオモジュールEVAL1を使用した廉価なステレオパワーアンプが
    海外メーカーから発売されていますが、こちらの採用は検討されないんでしょうか?
    https://purifi-audio.com/eigentakt/eval1/

    1. ause より:

      黒虎さま

      ご質問回答します。eval1は1ET400Aと組み合わせて機能する評価用基板です。問題はない性能の基板には見えます。技術力のないメーカーであればこの基板を採用するのが良いでしょう。しかし逢瀬であえてこれを採用する必要はないと思います。それは他のメーカーにおまかせします。

      廉価版パワーアンプで1ET400Aを採用しない理由はコストと性能のバランスが悪いからです。性能と音質は比例しておらずNC500と1ET400Aのコスト比ほど音質は向上していません。それにも関わらずコストは大量に仕入れる場合に大差があります。なので廉価版パワーアンプはNC500が最適です。NC500でも取って付けたような出来の悪い1ET400Aよりよい音は出せる見込みはあります。予算度外視で最高の性能と音を目指す場合に1ET400Aは良いですが、コストダウンを考慮に入れるならNC500がずっと良いと判断します。

      以前にも書きましたがNC500と1ET400Aは音質対策したNC500とならば劇的な差はないです。少し骨格がしっかりしたキリッとした音になりますがその程度です。正直電源への対策やSPケーブルを良いものに変えるほうが音は変わります。なのでNC500から1ET400Aのアップグレードも予定していません。それなりのアップグレード費用をいただくほどの価値がないと考えているからです。新しい1ET400Aを安値で売れば飛びつく人もいると思いますが誠実ではないです。1ET400Aを採用した製品を出すときは以前のWF-P500から大きくアップグレード(音質面で無理なら機能面でも)できるような製品にしなければお金を出していただく意味がありません。

      よろしくご参考までにお願いいたします。

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