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月別アーカイブ: 2013年6月

Ucdの独自カスタマイズについて – その2

今回は電源の音質への影響についての内容です。

電源による音質への影響はよく言われている内容なのですが、開発を進めていくと電源が当初想像していたよりもはるかに大きな影響を与えていることがわかります。その理由を考えてみるとすべてのアナログ信号は電圧によって表現されており、グラウンドや電源電圧の変動は間接的に信号自体の変動へとつながります。ですから電源回路の重要性の高さは信号回路と比較して決して劣ることない理由も伺えるかと思います。ですから理想的には電源は信号と全く同じレベルの慎重な対策を行うべきでしょう。

電源の変動を直接制御するのは電源回路の役割です。その電源回路に一般グレードのICを使うことは音質への対策として全く不十分であると逢瀬では結論づけました。そのため逢瀬のラインナップでは独自の電源回路Refine Unitを必ず搭載することにしています。

「Refine Unit」について

Ucdのデフォルト状態ではオンボードにある簡易電源回路によるレギュレータがバッファアンプの電源を供給しています。逢瀬ではこのレギュレータによる音質に与える影響が大きいと判断しています。特にスイッチング電源を使用した場合に劣化が顕著であり、デフォルトのレギュレータにスイッチング電源を組み合わせると大きく音質が損なわれてしまいます。具体的には高域が荒くなり繊細な表現が大雑把に感じられてしまいます。これらは質の劣るクラスDアンプの特徴でありわざわざUcdを使う意義がありません。

そこでWATERFALL Compactではそのような劣化を防ぐために独自のレギュレータである「Refine Unit」を独自の基板上に搭載しディスクリートバッファアンプと組み合わせることにしました。これによりスイッチング電源と組み合わせた場合であっても音質の劣化はトランス電源と比べはるかに減少し、結果としてトランス電源と同レベルといえる音質を確保しています。(トランス電源とスイッチング電源の音質傾向は厳密には異なるので完全な優劣にはなりませんが)

Refine Unit自体はICオペアンプをエラーアンプとして使用したハイゲインのレギュレータとなります。その基準電圧はローノイズ電圧リファレンスであり、ICオペアンプはこの基準電圧をもとに出力電圧を常に監視し、その高精度エラー訂正能力によって電圧を常に理想状態に保ちます。その性能はICオペアンプと基準電圧の品質が肝となります。ICオペアンプを使用することにより単なるローノイズ電源というだけでなく変動を強力に押さえに行く動作が特徴です。

しかし回路技術以外に重要となってくるのは、電源回路に使うパーツの組み合わせによって実際の音が大きく変化してしまうという点です。これは単なる性能だけで測れる部分ではなく、耳によるテストと選別が必須です。実際Spiceなどの回路シミュレータで電源回路の性能を検証すると十分な性能というのは比較的容易に達成出来ますが(下の図1、図2はその結果)、シミュレーションと実際では大分異なる部分も多いですし、音質的には単なる基準や目安にしかならないということになります。耳での評価になるとそのままの理屈だけの回路では音質的に素晴らしいものであるとは断言出来ません。もちろん三端子レギュレータ等と比較すれば十分高音質と言える領域にはあるのですが、更にここからパーツの組み合わせや定数を吟味することが必要で、それによって更に「逢瀬らしい個性を乗せた高音質」とすることが重要だと考えています。

このディスクリートアンプ+Refine Unitの搭載によりUcdの本来の音質を取り戻し、さらに逢瀬の個性を乗せたクラスDアンプ。それがWATERFALL Compactとなります。


図1.単段レギュレータによるノイズ除去シミュレーション結果


図2.多段レギュレータ+フィルタによるノイズ除去シミュレーション結果

 

矛盾する「音を良くする方法」が存在する理由

オーディオでは音を良くするための方法というのはネットを調べるととてもたくさんあります。たとえばアナログの回路方式一つとっても「これは矛盾するのではないか?」というような事例も存在します。例えば次のようなものです。(あくまで例なので、おおまかなグループ分けとさせて頂きました。)

  1. 非安定化電源、無帰還アンプが良いという話
  2. LED電源、電流帰還アンプが良いという話
  3. 帰還電源、帰還電圧アンプが良いという話

特に1と3はもっとも相反する設計方針だと思われます。単なる歪率等の測定データだけで言うならば3>2>1になるはずですが、最近では3.の高帰還型が良いという謳い文句は大手メーカーではほとんど見かけなくなった気もします。しかし測定重視のメーカーであれば3の設計を採用しているはずです。

1は理詰めでいうともっとも高音質から遠いように思えるのですが、現在でもこのような設計方針を貫いているメーカーがあると思います。そのようなメーカーが現実として生き残っている、そして音質面で評価されているとしたら、少なくとも「品質に問題のあるものは作っていない」と考えるのが妥当です。そこには良さを感じられる何かがあると誰かが認めた結果だと思うのです。

では疑問となるのは「音質として本当に優れているのどちらか?」ということですが、これは机上の理論ではなかなか決着は付きそうにありません。音質そのものの優劣を電子回路の技術やノウハウで解明するのはなかなか難しい課題ではないかと思います。(真空管とトランジスタの話でも似たようなものでしょうか。)

素材はあくまで素材

このような理由は、感覚に基づく評価だからこそ結論が出ないものだと考えています。しかし、これだけだとありふれた結論かもしれません。

それでは技術者ではなく音楽制作者からの意見を言うならば、これは何ら特別ではない非常に一般的な話に感じます。事実レコーディングに求められる音質というのはジャンルや楽器、編成によっても全く異なるのが一般的です。同一楽器でも求めるイメージによって作られる音は全く別物といってもいいでしょう。

制作現場ではレコーディングした音を積極的にいじります。そもそものレコーディングに使う機材(マイクやコンプレッサーなど)には強いキャラクターを持つものも多く、それをエンジニアがイメージする音を作るために適宜使い分けます。録音された音には既にこのような個性が付加され、さらに編集によってエンジニアの求める音を作り出していきます。ここでは音自体を変えることが表現手法そのものです。制作現場とはそのような世界です。

CDに収録された原音は大抵はこのような人によって創りだされた仮想現実です。なにも手を加えられていない音は音自体としては純粋かもしれませんが表現、メッセージというものも同様に含まれていないものです。

しかしそれならば「ルール無用のなんでもあり」なのかといわれれば、そういうことではありません。表現したいイメージがどれだけ明確か、表現を実現するための技術レベル、その結果人々の共感を生むことができるかどうか、ぱっと思いつく範囲だとこのような条件はあります。

表現したいものが明確でない状態というのはどういうことか料理でたとえるならば、和洋中世界中の高価な材料と調味料をあつめて混ぜ合わせただけの料理(甘みも辛みも珍味も全部ただ混ぜる!)を作っても、おそらくそれは料理とは呼べないものになってしまうでしょう。

要するに素材だけで勝負が決まるものではなく、磨き上げられた感性をもつ職人によって選別、組み合わせ、処理され、磨き上げられたものだからこそ、価値があるものといえるのではないでしょうか。

方向性は人が定める

少し話がそれましたが回路方式の話に戻ります。この話を踏まえて考えますと、オーディオの設計で矛盾する設計方針が同時に存在する理由も想像がつくのではないかと思います。

それはイメージする「理想の音」の違いです。

それぞれの設計者が思い描く理想は全く異なっていて当然です。であればそれに近づく方法が全く異なっていてもおかしくはありません。最初に上げた3つの方法論も思い描く理想の違いによって、全てが正解となりうることでしょう。ある人にとっては1であり、ある人にとっては3ということです。最も重要なのは1-3のうちどれが一番音が良いのかという単純なものではなく「1-3のうち、自分の求める理想に近いものはどれか」ということをしっかり判断することでしょう。その判断が明確であり近づけるための手段として多くの方法論を実行しているほど、その機材は高みにあるといえるのではないかと思います。

もしオーディオが測定値やスペックだけで勝負が決まる世界ならば、ずっと昔にオーディオ業界はスペックの高さ一辺倒になり、スペックの低いものは生き残れないというようなことになっているのではないかと思います。しかし現実はそうなっていません。この現実にはある種の真実が含まれているはずだと思います。それは答えのはっきりしていない表現の世界であると考えます。

表現とは設計者の理想とする音世界です。その世界を実現する方法は多岐にわたっており、あらゆる要素が音を変化させます。そしてその方法論は常に矛盾をはらみます。しかしその矛盾は設計者の理想とするイメージによっていずれかの方向へと強く方向性が定められます。その方向性が全てにおいて同じ方向を向いた時、それは強いメッセージをもった音質、機材となるはずです。

逢瀬の方向性

もちろん逢瀬も考えられる限りの手段で選別を行なって音決めをしていますが、例えば上記の1-3については逢瀬はどうしているか書きます。

基本的には現代の流行ではない3の帰還型を中心に採用していますが話はこれだけでは終わりません。1-3のどれか一つを選ぶという以外の回答もあります。3の帰還型は特定の使い方において1と比較してある部分の音質が劣化してしまうことがわかっています。この劣化した状態では1のほうが確実に良い部分があります。もしかしたら1が良いと言われている事例はこのような劣化する使い方で比較したからかもしれません。しかし単純に1にしてしまうと3の良さもまた失われてしまいます。

そこで逢瀬は3の良さと1の良さを同時に実現する解決方法を発見しました。1の良さと3の良さは音として異なるところにありますので、両方同時に実現するには新しい発見が必要でした。この発見のためには3の良さと1の良さ、それぞれが別個に存在することを認識し劣化の原因を特定して同時に実現する方法を探すというプロセスが必要です。1-3の選別だけでも設計者の方向性が必要ですが、3をベースにすることを選択してそこから良さを両立するための試行錯誤の世界です。

このようなノウハウが公開はされることはないと思いますが、ハイエンドの世界ではこのような積み重ねは普通に行われているのかもしれません。もちろんまだ見ぬ音質の実現手段は幾多にもあると思いますが、少なくともこのように現時点でわかっている範囲の理想を現実的な価格で表現するための試行錯誤は全力で行なっています。

そして逢瀬の売りは音楽制作者出身の設計者ということですから、音質傾向を選別する感性は一人の音楽制作者としての観点です。(音質基準について詳しくはこちらのページに記載があります)

逢瀬がどのような音質の方向性を目指すのであれ、お客様の好みに合う合わないは必然的に出てくるものと思いますが、できるだけ多くのお客様に価値があると思っていただける音質を提供できることを願っています。

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