ハイエンドDAC進捗とロードマップ

新年あけましておめでとうございます。

ハイエンド候補のDACですが予定よりもかなり早く音出しができました。偶然の出会いがあり自分ですべてを開発したら1年以上かかると思っていた工程が一気に短縮できたおかげで予想より遥かに早いペースで開発が進んでいます。

詳細はまだ明らかにはできませんが同様の発想のDACは海外含めて存在しないようです。技術的にはよく知られたものがベースになっているので同じ発想の製品はあるはず…とおもって探したのですが見つからないため、おそらく珍しい構成のDACになるのだと思います。

今の所お伝えできるのはよくある1bit系ではないことです。この系列は例を上げますとPlayback design、Nagra、Mola-Mola、PS Audio、マランツ等ですがこれらとは大きく異なります。

ただしまだ特性が目標値に全く達していないので、基本的な部分でまだ大幅な変更が必要となる可能性もあります。誰も採用しない発想な理由は大きな問題があるという可能性も残されています。

現代DACチップの課題

繰り返しになりますが、現代DACチップは問題があります。それは小パッケージに高集積、高速、低電圧、大電流になっていることです。ワンチップに高速デジタル回路を詰め込み、DACを複数押し込め、さらに大電流を流すような設計です。これらはすべてオーディオ的には余裕のない音を作り出す要素です。

既存のハイエンドパワーアンプの設計を見てみますと、大型コンデンサ、限界まで太いパターン、大きな出力素子をパラレル化、これらによって電流の余裕を確保します。これが音の余裕とパワーの源です。現代のDAC素子はこれと真逆の設計になってしまっています。ディスクリート構成や古いチップを使ったDACを除いて、現代的な高性能ICを使ったDACでは共通する音の繊細さがあると思います。繊細さは駆動力の低さと同じで、たくさんの音が鳴ったときに大きな音に小さな音がマスクされたり揺さぶられる現象として現れます。ある意味早いフレーズをうまく演奏できない奏者と同じです。

AK4497を採用しているIntegrated 250で課題となっている駆動力不足についてもこの部分が最大の原因だと考えています。ES9038も程度問題で根本的な問題は共通です。ES9038搭載機で駆動力に定評のあるオーディオ機器の出音を確認しましたがディスクリート構成やDACのような真に力強い音は出すことができませんでした。ですので最新のAK4499もまったく同じかAK4497より悪化している可能性もあります。事実AK4497よりAK4495のほうが同等構成では音の余裕はありました。

確かに駆動力を度外視した描写力性能だけならワンチップでも最新のものが良い音かもしれませんが駆動力はハイエンドでは必須とされる能力です。dCS、ゴールドムンド、FM、ソウリューションなど例を上げればきりがありません。共通するのはハイエンドとされる製品は高い駆動力を持っているものです。その重要性は上記の演奏の上手さ=タイミングの正確さ=駆動力のように音楽的に直接関係があるのが一点、もう一つは富裕層の精神と響くのが「余裕」であるからでしょう。ハイエンドを購入する層でもあります。

今回はこの部分についてはきちんと対策をしていますので、既存のディスクリートDACと比較しても強力な駆動力の音が出ています。まだ仮構成の小型基板でも十分な性能なので、これから更に改良していけば最終製品の頃には別次元の力強い余裕のある音になりそうです。課題は微細領域の描写力をどこまで詰められるかです。ディスクリート系ではここが弱くなることが多いですし、こちらの試作機でもこの部分はまだ弱点です。

ということで、リリースまでの道のりはまだまだです。特性面で不完全な部分があります。そしてハイエンドDACはハイエンド製品にふさわしい仕上げとするためにとても長い時間が必要です。中身のDAC部分だけ出来上がったから発売となりません。お客様からのご感想を見ていただけるとわかるように、現状のインターフェースや使い勝手、新しい規格対応の部分にはまだ課題が多く存在しますので、それらがクリアできてからの発売となります。

今後の開発、発売予定

現時点の構想ではハイエンドDACより前にこのアーキテクチャーを使った業務用AD/DAを検討しています。ADCは出来るか不明ですがプロ用DACは上記タイミングになりそうです。リリースタイミングとしてはデジタルコンバータ改めデジタルリコンストラクター(仮称)よりあと、ハイエンドDACの前です。AES入力、XLR出力、その他の余計な機能はなしで1Uラックマウント型のシンプルな構成で長期動作安定性を重視した設計です。まだ未定ですがこのような構想をしています。これならハイエンドDACより早く発売することができます。

また今年最初の目標は量産工程の見直しです。いままでは自宅ですべてを受注生産している状態ですが、これからのヘッドフォンアダプタ、デジタルリコンストラクターの発売時には現在の体制では需要に答えることが難しいと考えております。ですので、メーカーとしてふさわしい量産体制を整えてから発売に備えたいと思っています。そのためリリースまでの時間は予定より若干伸びると思いますが、そのかわり量産後の供給安定性と入手性は大幅に向上する見込みです。

以上をまとめた逢瀬の最新のロードマップは以下のようになります。時期は未定ですが対応順は以下のように進める予定です。ヘッドフォンアダプタは量産が最も簡単な製品なので量産体制の確立と今後の体制を作る足がかりとして最適なタイミングと考えています。デジタルリコンストラクターまでの順番はほぼ確定です。

  1. ヘッドフォンアダプタ(仮称)
  2. WF-P400のアップグレード
  3. デジタルリコンストラクター、略してデジリコ(仮称)
  4. 業務用ハイエンドAD/DA
  5. オーディオ向けハイエンドDAC
  6. Integrated 250のアップグレード
  7. WATERFALLとは別の音楽性重視のシリーズ開発

変更は業務用のAD/DAが追加となった点と、以前項目にありました電源ケーブルのラインナップ拡充はキャンセルとなりました。当面は現行の電源ケーブルのみの取扱です。

デジタルリコンストラクターはRoon Ready搭載を検討しています。これがどれくらいの工数がかかるのか未定ですが、場合によっては発売の遅れの原因となるかもしれません。ですが将来的にはこのような最新の規格への対応が必要と判断しますので、ここで時間がかかっても搭載を目指したいと思います。音質的にはDirettaが優位かもしれませんが利便性ならばRoonでしょう。Integrated 250にRoonは後付できませんので実質デジタルリコンストラクターでこの機能を補填する構成を考えています。

長期でおまたせしているパワーアンプのアップグレードは外注量産が安定した頃に行いたいと思います。もっと早く行いたかったのですが250が予想より好評で生産と増産のための準備のため時間がまったく取れませんでした。並行してハイエンドDACのリサーチも行っていましたのでなおさらです。告知してから大変長らくおまたせしていてすみませんが確実にやりますのでよろしくお願いいたします。

もう一つ、もうすぐIntegrated250のソフトウェアアップグレードも公開したいと考えておりますのでよろしくお願いいたします。主に操作感やレスポンスの改善に関係する内容となる予定です。現在限られた範囲で動作テスト中なのですがリモコン関係の不具合が報告されておりますので、その問題が治り次第手順含めて公開します。

それでは今年もよろしくお願いいたします。

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ハイエンドDAC進捗とロードマップ” に対して11件のコメントがあります。

  1. nk より:

    お忙しい所、失礼します
    デジタルコンバータ改めデジタルリコンストラクターについて質問があります
    下記の過去記事に記載されていた入力項目が全て変更となりAES入力のみになるのでしょうか?
    >入力 USB、同軸*2、光*2、HDMI-I2S

    AES入力という事はPCをトランスポートとして使う事が出来ないという考えでよろしいでしょうか?

    1. ause より:

      ご質問に回答します。

      デジリコの入力仕様は大きな変更ありません。ただしUSBはLAN(Roon)と同居ではなくいずれか選択になるかもしれません。ケースは余裕があるのでUSB、LAN、両搭載もおそらく大丈夫と思います。いずれにせよPCと単独で成立するような形としたいと考えております。

      色々な製品のお話が入り乱れており、わかりにくかったかもしれませんが、AES入力のみになるのは業務用DAコンバータです。ご安心ください。

      1. nk より:

        文章をちゃんと読めていなかった自分の勘違いですみませんでした・・・
        量産体制の件等も含めて、色々心配していた要素が消えて良かったです
        大変、楽しみにしております

        後出して、失礼ながら出力端子についても質問させて頂きます
        オーディオを初めて歴が浅いのですがケーブルによって音が変わってしまうという印象があり、
        気に入ったUSBケーブルがあっても、USB入力→HDMI出力とする事により
        希望していた音が出せないかなという印象があります
        主観ですがHDMIケーブルは少し選択肢が少ないかなと思いました
        技術的にUSB→HDMIは仕方がないとしても
        流行的にはLAN→LANの選択肢があっても良かったのではと思いました
        少し遠回りになりましたがケーブルで音を統一したい場合、
        同メーカー同グレードという製品が限られてしまうという事です
        素人目線でお恥ずかしい話でそもそもケーブルで脚色する事自体が想定外でしたら
        自分の間違いですのですみません

        1. ause より:

          非常に難しい問題です。実はケーブル以外についても同様で、インシュレータやケースの振動対策や配線状況でも音は変わります。ケーブルはたくさんある変動要因の一つでしかありません。ケーブルだけでもコネクタによる要因と線材の要因は別で、ケーブルインシュレータでも音は変わります。

          ではどうすれば良いかといえば、メーカーとしてはケース・バイ・ケースとしか回答はできません。各人で微細領域についてはチューニング、追求していただくしかありません。

          次に個人的な回答ですが、これはもうケーブルの音色には頼らないことが望ましいと考えています。影響の大きいものから小さいものへ優先順位を割り振るべきです。ケーブルは比較的最後の手段です。もちろん煮詰まったシステムならば仕方ないのですが、はじめから特定のケーブルの音色ありきだとシステムに柔軟性がなくなると思います。

          例えばですが機器の癖をケーブルの癖で特定の心地よい音に調整しすぎることは、後々泥沼化する可能性が高いチューニング方法と思います。そうなると何かを変えたときに絶妙なバランスが崩壊し違和感を感じやすく、調整もいろいろな要素が複雑に絡み合ってきてあれもこれも手を入れないとバランスが取れない構成となりがちです。

          なのでケーブルによる音作りは最後に近い手段だと考え、機器構成が固まるまではケーブルの音質にシステムを支配されないように構成することが望ましいと考えています。そして上記のように同じケーブルでも使いこなしで音は変わります。ケーブルの振動対策や設置(相互に接触しない、平行に配線しない等)の見直しでも音は変わるからです。同じ線材なら同じ音がするわけではありません。

          とはいえこれは個人的な考え方なので一例と捉えていただければ幸いです。

          1. nk より:

             分かりやすい回答を有難うございました
            自分の経験の範囲ではケーブルは音が激変するというイメージがあった為
            どうしてもケーブルという簡単な手を一番の要素として持ってきた発想しか出来ておらず、一方的な視点でしか見れていませんでした
             まず、使ってみて自分で調整する事もオーディオの楽しさだと思うのでこれを気に色々やってみようと思います
             面倒くさい質問すみませんでした

  2. ふぃ~きぃぃぃぃぃ より:

    お忙しいところすみません。
    質問が2つございます。
    1.デジリコは、youtubeの32kHz音源には対応していますか。
    2.クロストーク性能についてなんですが、最近、stereophileの測定データから、周波数があがるほど性能が悪くなる製品があることを知ったのですが、逢瀬さんのクロストークが良いDACでもそういう傾向になるのでしょうか。

    stereophileの記事はこれです。
    https://www.stereophile.com/content/chord-electronics-qutest-da-processor-measurements

    よろしくお願い致します。

    1. ふぃ~きぃぃぃぃぃ より:

      1のyoutubeについては再生側の話なので関係なかったですね。すみません、自己解決しました。

    2. ause より:

      ご返答遅くなりました。

      1.
      音源サンプルがあれば、試作機での動作状況について回答はできます。

      2.
      クロストークをフィードバックで補正している場合によく起こります。逢瀬の設計も電源はフィードバックで補正するタイプなのでこの影響は受けます(ご紹介の製品よりクロストーク性能は高いですが)。例えばアンプのフィードバックゲインは通常高域へ行くと減るため高域でのクロストーク抑圧性能が劣化します。PSRRやCMRR特性も同様です。だから高域へ行くほど電源やGNDの変動に敏感になります=クロストークの劣化。

      またレイアウトでクロストークを対策した場合でも高周波は周辺に漏洩しやすくなるのでやはり高域へ行くほど特性の確保は難しくなります。理想を実現するなら電源も基板も物理的に分離してそれぞれを別個にシールドなどになりますが、そこまでするのは大変なので現実は特性劣化が起きない現実的な設計を模索することになります。

      1. ふぃ~きぃぃぃぃぃ より:

        ご回答ありがとうございます。
        多くの会社では、1kHzの測定データしか公表されていませんが、それよりも高域では悪化してしまうんですね。前までは全ての帯域で同じ特性かと思ってました。
        モノラルのアンプがあるのにモノラルのDACがない(?)のは何でかと思ってましたが、簡単にはいかないんですね。

        1. ause より:

          モノラルDACは超ハイエンドでは存在しますが、設計上は課題もあってコストバランスを考えてしまうと良いことばかりでもないと考えています。クロック管理、タイミング同期の問題があります。左右でデジタル的なタイミングが一致していないと、クロストークが良いわけではなくて左右バラバラになりかねません。中央が薄く漠然と広がった音になりそうです。だからクロック同期を実現できる構成でないとデメリットがあると考えています。そして同社でクロックとモノDACの接続まで実現できるようなラインナップを揃えるとなると、超ハイエンドとなってしまうのだと思います。超ハイエンドではコスト度外視で理想のみを追求するので、一つの手段としては有効でしょう。

          1. ふぃ~きぃぃぃぃぃ より:

            ご返答ありがとうございます。
            よく分かりました。

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