AK4499特注DACのモノモードLR間タイミング誤差について
本件についてSNSで問題について取り上げられましたので、こちらに公式としての情報を一旦まとめさせていだたきます。個人的な印象やただの憶測に基づく発言も散見されますが、必ずこの一次ソースを先にご一読いただき、その上で冷静なご判断をしていただければと思います。
現象の詳細
この現象の内容はLR間のチャンネルタイミングが最新ファームでの平均0~2usほど発音タイミングがずれるという内容です。またこの現象はサミングモノ仕様でのみ発生します。ステレオ、マルチでは発生しません。ズレの幅は起動ごと、入力切替ごとに上記範囲で変化します。
この誤差による影響がどの程度のものかについては下記、「問題の深刻さの客観的情報」にて記載します。基本的には仕様範囲内であり、特別な音質的メリットを選択した結果の副作用です。
問題の解決方法
以下の3パターンの解決方法があります。このうち1と2の方法については、問題提起直後にユーザーフォーラムで回答済みです。
方法1 DAC基板を1または2枚構成としてステレオモードにする
メリット:お客様自身で即問題の解決が可能
デメリット:DAC基板を取り外す必要がある、DAC基板4枚全数が機能しなくなる
方法2 DAC基板を4枚ステレオモードで動作させる(希望があれば詳細資料作成します)
メリット:フルサミング仕様のまま解決が可能
デメリット:サミング配線が複雑のため自作スキル必須、専用ファームが必要なこと
方法3 ES9038pro基板と交換する
メリット:フルサミング仕様のまま解決が可能
デメリット:ファームアップデートと基板交換が必要、音質が変わる、対応までに時間がかかる
以上です。
最も簡単な対策方法はステレオモードで使用していただくことです。タイミング誤差が致命的と思われる方はステレオモードに変更していただくのが今すぐできる解決方法です。ただしこの場合同時使用できるDAC基板は現行ファームでは2枚までという制約が発生します。
残念ながらモノモードでの動作では基板単位でのLRCKクロックタイミングに誤差がある以上100%完璧な補正は不可能というのが現在の回答です。現在のファームでは既にファームレベルで対応可能な限界まで縮めていますので、これ以上はハード的な対策が必要です。
方法3が根本的かつ最終的な解決になると現在のところ予想しています。ES9038Pro基板での最終動作確認は後ほどここに追記しますが今の時点では解決可能と予想します。誤差があるとしてもES9038Proは100Mhzでの動作になりますのでタイミング誤差の最悪値が現在の1/4以下になります。ずれるとしてももはやnsオーダーです。ですので4枚サミング仕様でタイミング誤差問題を解決を望まれる方にはES9038pro基板への交換で対応したいと思います。(AK4499はAKMの事故で今後入手が困難な状況となりましたためAK4499での補償は不可能です。)
これはタイミング誤差がどうしても許容できない方向けへの対応となります。
対応は無償(送料のみ負担いただく形)で行いますが無償対応はAK4499基板との交換が条件になります。AK4499基板と両方の基板保持を希望される方はES9038Pro基板は購入頂く必要があります。今後ES9038Pro基板の生産数を決めるために希望者の募集を行います。
希望者が一定数以上に達した場合はES9038Pro基板の生産を行います。この記事のコメント欄に「交換希望」または「購入希望」と書いてください。その数量をみて生産数を判断します。10枚以内だった場合は生産しません。購入の場合の金額は数量で金額可変しますがES9038Pro基板をフル実装の場合でも10万円以内に抑える予定です。ES9038の音質については後日追記します。
追記:ES9038Proの音質です。AK4499と比べて基礎クオリティに優位性はないと感じます。低音の伸びや音の余裕、生音の滑らかさなどはやや減退、その代わりにさわやかでクリア「感」という傾向です。打ち込みや人工的な音色が主体の現代的楽曲にはES9038Proが、生楽器主体の音楽にはAK4499が向いていると感じました。とても極端な例えをするならば、点描やデザイン画調のES9038Pro、油絵調のAK4499という感じです。奥行きの階調表現や緻密さや低域レンジはAK4499が優れていて、ES9038Proは軽やかな音の立ち上がり、前に出る音が中心で背景音は薄め、これが要因でクリアでさっぱりと感じられます。特性面ではSNが若干減退しTHDが改善していますが総合特性で大幅な優劣はありません。
問題の原因
DAC4枚のクロック周波数がバラバラなことが直接の原因です。約400kHzの4種類のマスタークロックを基準としてDACは動作していますので、アナログ信号を生成するタイミングがDAC基板相互で微妙にずれています。そのため現状の4枚モノモードで完全にタイミングを合わせることは難しい設計です。
今回クロック周波数を分割した意図は位相雑音の抑圧が目的です。このような複雑なことをせず単一クロックから供給すればタイミングも周波数特性もズレることはありませんでした。それでもこの特殊かつ困難な方法を選んだのはクロックの位相雑音の従来の限界を越えるためです。基準クロックをパラレルにするという発想は知る限り前例がない手法です。もちろんクロック自体をパラレルにすることは出来ません。
しかしDAC出力はローノイズなアナログ信号ですからパラレルにすることが出来ます。単体DACチップの動作はマスタークロック基準で動作しますから出力信号にはかならずクロックの固定周波数由来の雑音成分が残ります。AK4499では実際にアイドルトーンを観測できます。これを固定マスタークロックではなく複数クロック由来に変えれば、アイドルトーンもΔΣ変調ノイズも無相関ノイズとなります。
実はパラレル化によって改善するのは無相関ノイズのみですから、単一固定クロックで複数DACチップを駆動してもクロック由来の成分は抑圧されません。しかし別クロック由来のノイズであればパラレルによってクロック由来のノイズを打ち消すことが出来ます。
これが本機の狙いです。このような設計にしなければ実現できない領域があったわけですが、上記の副作用が発生しました。この優位性を無視してそれに伴う問題のみをクローズアップすることは平等な理解ではありません。微小タイミング誤差よりも音質的なメリットがある、それが多くのお客様の利益だと判断して設計しています。実際に寄せられたデータからも本機の音質的評価についてはこの問題はないと判断しています。
このあと後述しますが微小タイミング誤差はほとんどすべてのお客様にとって実質的な不利益にはなりません。
問題の深刻さの客観的情報
2usの誤差をスピーカシステムで認知できる可能性はかなり低いです。理由はオーディオシステムに伴う様々なボトルネックがあるためです。
2usは500kHzの波長に相当し、音速の距離だと680um、約0.7mmのズレです。スピーカのセッティングで左右0.7mm以内の精度に設置するだけでも難しいですが、それ以上に難しいのは左右の耳の位置を毎回0.7mm以内の精度に合わせて聴くことが同時に要求されます。もちろんスピーカ本体のキャビネット精度、ユニットの加工精度、取り付け精度についても同様です。スピーカシステム全体でその誤差が0.7mm以内に収まっている必要があります。
ヘッドフォンの場合でもLR装着位置のズレがあります。毎回左右0.7mm以内の精度でヘッドフォンを装着しているかどうかと同じ差になります。側圧とパッドの硬さ、頭の形状でも誤差は起きます。イヤホンの場合でもどれくらい奥まで差し込んでいるか、鼓膜の左右位置の差、耳道の長さ、いろいろな要因があります。
以上から2usの違いというのは相当厳しい数値であるということは上記で感覚的にご理解いただければ幸いです。
参考までにもう一つの客観的事例として、現代のスピーカ設計ではインパルス応答の等位相特性も否定的な流れが主流です。インパルス応答はmsオーダーの特性ですがそれすらも認知の限界外にあると捉えられているのが事実です。もちろん現代でも等位相を重視する流派もありますが多数派ではありません。その理由として人間が位相特性に鈍感であるという結果があるからです。
実際に音が正確という評価で売れているハイエンドスピーカが上記のように等位相設計でない(中域と高域ユニットの2つの振幅ピークが数百usのズレを伴う)ことからもそれは一定の説得力があります。等位相は確かに満たしているに越したことはないのですが、それ以上に重要な他の要素がスピーカの評価につながっていると考えるほうが自然です。本機の設計思想もこれと同様です。usオーダーのタイミングの厳密さよりも他に重視したパラメータがあるということです。
以上の理由により2usのタイミング誤差が即製品価値を毀損するような内容ではないと認識をしています。特に通常のリスニング用途であればです。
(管理者編集:キャンセル済み)
交換希望4枚
補足
DAC内蔵チャンネル数の関係でAK4499-2枚=ES9038-1枚なので、筐体1台あたりの交換上限は2枚になります。上記希望はおそらくAK4499-4枚のことなので実質はES9038-2枚と交換になります。また故障基板は交換対象とはなりません。
これらについて予めご承知おきをお願いいたします。
AK4499 2枚返却=ES9038 2枚交換
AK4499 4枚返却=ES9038 2枚交換
どちらになるのでしょうか?
こちらになります。DACチップの数は減るのですが、チャンネル出力の構成自体はAK4499と同じです。ES9038proは8ch、AK4499は4chだからです。
>AK4499 4枚返却=ES9038 2枚交換
了解いたしました。
交換希望キャンセルにして下さい。
承知いたしました。集計ミスを避けるため希望コメントを編集させていただきますがよろしくお願いいたします。
以下全体向けの回答です。
今回のES9038pro無償交換対応は「一部の方だけが該当する不具合」への対策のための選択肢です。オーディオ的なアップグレードの案内ではありません。あくまで同等機能を、無償で提供するためのサポート対応、となります。
またこのまま交換希望、購入希望がなければ基板の生産は行いません。希望者は2020年内は続けて募集しますので、年末の結果を見て総合的に判断したいと思います。
4499との違いを書かれてましたが、
4499の方が低音の伸び、音の余裕、生音の滑らかさがやや良くて、奥行きの階調表現や緻密さや低域レンジは完全に4499が上なのでしょうか?結構差がありますか?
書いてある事を見ると9038に勝ち目はなさそうですが、音の軽やかさやクリア感は優劣(個人の好み含む)を覆すレベルでしょうか?
また、ファームは4499と同等の音質特化ファームが与えられるのか、デジタルフィルターは4499と違う物になるのか、以上回答お願いします。
>奥行きの階調表現や緻密さや低域レンジ
これらの特徴はAK4499が明確に優位だと思います。またすべての比較はシングルチャンネル同士の条件です。サミングはせずに評価しています。
まず奥行きの階調表現や緻密さについて書きます。ES9038は中域にエネルギーが固まっている帯域があり奥行きをマスクしている印象があります。他機種のES9038でも同様の傾向があるのでIC自体の特徴でしょう。大きな差と感じるかは人によると思いますが差はあります。この部分はマルチビット系DACが優秀なことがありますがAK4499のほうが(同じではないですが)それに近い描写です。ちなみにオペアンプの性能自体はES9038基板のほうが性能的に有利な構成なので(AD812>OPA1612)AK4499のほうが基本性能は上なのだと思います。OPA1612>OPA1612のノイズ至上主義的構成でもAK4499のほうが背景描写は有利です。この違いはノイズ性能ではなく方式か内部構成の差だと思われます。
低域レンジや駆動力はES9038も悪くはないです。AK4499のほうが良いですがこちらの差は少しです。従来のIC-DACと比べるとES9038も優秀だと思います。
>音の軽やかさやクリア感は優劣(個人の好み含む)を覆すレベル
好みがどの程度かによります。人によってはES9038をあえて選ぶという可能性はあると思います。要するにオーディオにおいてどこを重視するかです。重要視しないパラメータは劣っていても許せるかどうか、劣っている部分を明らかにするシステムかどうか、このあたりに依存します。
>ファームは4499と同等の音質特化ファームが与えられるのか、デジタルフィルターは4499と違う物になるのか
ファームは同等です。音質対策版で評価しています。デジタルフィルターは前段は同等になりますが後段は異なります。音は前段が支配的でこれはどちらでも同じです。後段はAK4499はAK4137を経由していますが、ES9038は内部ASRCで独自フィルターを構成できる仕様になっています。この機能には期待していたので独自フィルターも標準フィルターも両方試しましたが特別な優位性はなく若干の改善があった程度でDACの差を埋めるまでの改善はありませんでした。
「2usの誤差をスピーカシステムで認知できる可能性はかなり低い」と書かれていますが、モノモードで、かなり長時間の単一楽曲(例えば単一トラックで60分を超えるような音声ファイル)を再生する際には、その誤差が蓄積されて、最終的には可聴なまでに乖離してしまう可能性があり得るように思われますが、いかがでしょうか?
回答します。誤差の上限が2us程度であって誤差は蓄積しません。再生中は固定で誤差は伸び縮みをしないです。