外部クロックの音質支配力、デジリコの10M非対応について

先日貴重な比較をする機会がありました。詳細なメーカー名や機材名は公開できませんが、あくまで機材の音の比較ではなく外部クロックの影響力を示す一例と考えていただければと思います。そしてこの結果はデジリコに外部クロックを接続するべきではないという経験と一致するものでした。

この書き出しでもわかると思いますが、結局DDC(デジタル デジタル コンバータ)としての音質格差は基本設計による音の差が支配的であり、外部クロックはそれを覆すほどの革命はもたらさないということです。今回の機種に限ったお話ではありますが、あくまで外部クロックは音の調整役であり引き立て役であり主役ではないということです。

外部クロックで音は決まらない、一つの補助要因だった

今回の比較機種は3機種です。そのうちひとつがデジリコですが、一つは高精度クロック処理を売りにする有名なDDC製品、もう一つは業務機メーカーの製品です。デジリコ以外の2機種はどちらも外部10Mクロックを受け入れます。ですが高性能外部クロックを入れても相互の音質的な順位は逆転しませんでした。たとえばですが業務用DDCに外部クロックを入れない状態でも、外部クロックを入れた高精度クロックDDCより良かった、そしてその差はそれなりに大きいものでした。もちろんデジリコは外部クロック関係なく最も良いです。

もちろんたまたまこの2機種が外部クロックを受けるのに優位性がない設計だったという可能性もありますが、市場では同じDDCでも高額クロックを購入して音が良いと組み合わせている方も多くいますので、決して効果が少ないとか音が変わらないわけではないです。あくまで機種間にある絶対的な音質差を覆すほどの効果が外部クロックにはないということのようです。

このうち最も技術的主張をしているのは高精度クロックDDCのメーカーです。これに対して業務機のほうはクロックの性能を売りにしていません。音質のためのクロック設計が重要だと主張しています。デジリコも内蔵クロックで音が決まらないのでわざわざ宣伝するまでもないクロックを使っています。

音が良かった2機種はクロック単体の精度や性能を重視しているわけではない、これがとても重要です。

当社としてはDDCに重要なのは環境だと考えます。理想伝送をできる環境を整えること、それによってシステムトータルで正しく性能を発揮できる環境を整えることが重要なのではないか、そう回答したいと思います。通常のオーディオでは外部クロックの使用状況的にここで言う理想伝送に持っていくことは難しく、外的要因(例えばGNDの接続、アースの共有、AC経由のノイズ伝搬)が増えるだけなので、さらに根本的な対策は困難になっていく。このように思います。

よくDDCやクロックではオシレータのカタログスペックやデジタルシンセサイザーのカタログスペックをよく主張するのを見かけますが、実はそれらのスペックはシステムトータルでは発揮できていない状態にあり、どこかで性能は毀損されているかもしれません。だからデジタルでも音が劣化する、音が変わるのです。本当に理想伝送になれば上流の影響は受けなくなっていきます。

事実上記の3機種で言えば業務機とデジリコは上流に音を支配されにくいです。良い環境でも悪い環境でも安定した音質を発揮します。どれだけ劣悪な環境で良い音を出せるか、これはDDCを測る一つのパラメータと思います。上流次第で音が良くも悪くもなるDDCは、実はDDCとしては不完全かもしれないということです。デジリコの実際の対策内容もいかに外的要因を防ぐかにあります。

少なくともオーディオで音が変わる要因はクロックそのものだけでは支配的ではないのはDACの設計からもわかっています。もちろんクロックの性能も大事なのですが、クロックの性能だけではだめ、というほうが適切な表現です。大半の設計ではクロックがその本来の性能を出せる状況にないのではないでしょうか。単体オシレータの測定値はあくまで理想的な参考例ですべてがそのように実装されているわけではありません。環境を改善して問題が解決する。その裏には環境の問題が見逃されているという事実、そういう可能性があります。

高額な外部クロックはほどほどに…

絶対的な高みにたどり着くために予算を度外視して…という目的であれば少しでも上に行ける手段を選ぶのは有効です。その手段の一つが外部クロックと思われます。実際DDCより外部クロックのほうが高額なものを導入する事例も見かけます。ですが現実は音質を支配しているのはDDC側であって、外部クロックはあくまで補助であり、しかも音質調整的な位置づけということです。これを覚えておきたいところです。

高額クロックを繋がないと真の音が聞けない、これは誇張されている可能性があります。少なくともこちらの実験では、最も重要なのはクロックを受ける機器の設計であり、外部クロックは主役ではありませんでした。

外部クロックの影響はアンプで言えばケーブル位の影響力でしょうか。完成度の高いシステムになるほどケーブルで音は大きく変わりますが、実はアンプを変えるほうがもっと根本的な音の差になります。アンプの差をケーブルが覆す事例はあまり聞いたことがありません。もちろん最終的には両方良いに越したことはないのですが、基本はアンプが良いことが前提です。

上記の低価格DDC+高額クロックの話は実はこれと似ています。しかもアンプの事例と違って難しいのは、電源や接続ケーブルや外的要因が増えることによって、何もしない状態より大幅な劣化もありえることです。(もちろん音が変わるので好みの範疇で、劣化したほうが好みな場合もありえます。)

デジタルオーディオはPCの対策の時代から大掛かりで手間と時間のかかる方法が主流でしたが、それはネットワークプレイヤーが登場しても同じでした。今度はLANのノイズ対策製品など、結局外部電気製品がどんどん大掛かりになり、あれもこれも必要になり、接続されるデジタルオーディオ製品はすべてが同じ環境依存と外的要因の問題を抱えているように思います。そしてそのための個別対策で音を良くする製品がたくさんあり、どのように組み合わせるのかも無数にあります。

予算に限りがあるのがほとんどの方の現実だと思います。高額な製品を次から次へ購入しなくても問題がない状況に持っていくこと、これがデジリコの目的です。理想は無対策の環境でも手軽かつ現実的な予算でデジタルとして安定した音を出せることです。

外部クロックを前提とした「さらなる高みがあるし、そこに行くために高額なクロックが必要です。」という従来のオーディオ界と全く同じ状況では、まだこの目的は達成したとは言えません。だから実際にクロック接続のテストでもDDC単体の素性が支配的でクロックは二次的要因だったこと、中途半端なDDCに高額クロックをつけても良いDDCにならないこと、この事実はデジリコの目的に合致する結論であり、ここで伝える価値のある結果です。

だから今こそ自信を持ってデジリコには外部クロック不要論を伝えたいと思います。(あくまでデジリコの話です。すべての機種の可能性は否定しません)

繰り返しになりますが、高額な外部クロックをつなげることは趣味性は高いですがデジリコ製品の目的とは反します。外部クロックによって少しは良くなる可能性がありそれは否定しませんが、必ず良くなる保証はないし安く済む保証などもっとないです。ほとんどの外部クロックの単価はデジリコより高額なのも事実です。そういう高額で高度な対策製品が必要な現状から開放したい、これこそがデジリコの開発動機です。だからデジリコに外部クロックは不要でなければならないですし、お客様はその予算をもっと別の改善に使うほうが効率が良い、そう伝えたいと思います。

もちろんですがデジリコも完璧ではありません。上流の影響は完全にはなくなりません。残ります。でも現状よりはるかに手軽に理想に近づくための、確実な一歩にはなると思います。ほとんどの環境で底上げができるはずです。

ハイエンドクオリティを現実的な価格で提供することは当面の目標

最近逢瀬の今後の方向性について考えることが多いです。最近はどんどん一般人の手の届かないところに飛び立っていくハイエンドの価格帯を目にする機会が多いです。少し前は数百万円でもハイエンドだったものが最近では1000万円台からがハイエンドになってしまっているようです。もはやシステムトータルでは1億円を超え始めておりそれが現在のハイエンドです。これではほとんど誰もハイエンドの新製品など買えません。かなり限られた富裕層だけが対象の世界です。

1億円出さなければ聞けない良い音など、あまりに現実的ではありません。そして殆どの方は高額なほどよいとどこかで思っているのか、心のどこかでそれを求めたり興味を持ったりします。やれることをやりきる姿勢、そのための突き抜けた設計、物量、デザインなど、たしかにハイエンドの広告には色々興味を惹かれる要素に事欠きません。

しかし同時に高額製品でなくてもそれらを超える良い音を出せる事例そのものはあります。設計の方法やアイデア次第で単純な物量や突き抜けた設計を超えることは可能です。効率の良い音質追求とは長所を伸ばす作業ではなく短所を取り除く作業です。まだ見えていない短所を見つけ出し、過剰ではない最適な対策を施すことです。これをあらゆる側面からやっていきます。

長所を伸ばし続けても大きな短所があれば、ある一線を越えることはできません。どれがどれとはいいませんが一部のハイエンド製品はこの長所ばかり伸ばした結果現実離れした設計になり、その結果も現実離れした価格になっている事例もあるかもしれません。ですが実は大きな短所が残っていれば最終クオリティはそこまでの到達点ではないケースがあります。これこそが低価格で高価格を破るための数少ない方法です。

逢瀬はこのバランス感覚を重視したいと思っています。その結果が誰もが買える製品価格です。コストを掛けない設計でも最高に突き抜けたものを超えられる可能性があるということです。バランス設計であればハイエンドクオリティだったとしても、誰もががんばれば買える価格で製品を提供できます。高額製品を買える方はハイエンドを買えば良いですが、それができない方がいます。それを忘れないようにしたいと思います。かといって展開規模も限られていますし量産数も少ないので中国製品のような価格まで下げることはできません。その境界線にある特定視点からのベストバランスを狙っていくのが当面の戦略です。

どんなに音が良くても音質で価格を決めません。音が良ければどんなに価格を上げても良いとは思っていません。

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